1回の手術で出る大量のプラごみ――オーストラリアの病院に学ぶ「医療と環境」の両立
2025年7月、環境・サステナビリティ専門メディア「オルタナ」に掲載された記事を読んで、改めて考えさせられた。
私たちは病院を「人の命を守る場所」と認識している。しかし、その医療行為の裏側で、驚くほど大量のプラスチックごみが排出されている現実をどれだけ知っているだろうか。
そしてさらに驚くべきことに、オーストラリアでは医療の質を維持しながら、廃棄物削減やリサイクルを実践している病院が存在する。
今回は、オーストラリアの先進事例から見えてくる、日本の医療と資源循環の可能性について考えてみたい。
「命を守る現場」が生み出す大量の廃棄物
手術室では感染防止のため、多くの器具や資材が使い捨てとなっている。
手袋、ガウン、シリンジ(注射筒)、点滴バッグ、吸水シーツ、手術器具の包装材など、1件の手術が終わるたびに大量のプラスチックごみが発生する。
もちろん患者の安全が最優先であり、滅菌や消毒の徹底は欠かせない。しかし、「安全のためだから仕方ない」と思い込んでいる部分の中には、本当に改善できないものと、見直せるものが混在しているのではないだろうか。
これは多くの企業活動にも共通する。
「昔からこうだから」 「業界の常識だから」 「規制があるから」
そうした前提を疑わない限り、変革は起こらない。
オーストラリアの病院が実践する資源循環
記事で紹介されていたのは、西オーストラリア州パースにあるフィオナ・スタンレー病院(FSH)の取り組みだ。
特に印象的だったのは、使用済みシリンジのリサイクルである。
日本ではシリンジは基本的に感染性廃棄物として焼却される。しかしFSHでは血液などが付着していないものを分別し、プラスチック資源として再利用している。
回収されたプラスチックはジョウロなどの製品として生まれ変わり、ホームセンターで普通に販売されるという。
さらに点滴バッグや酸素マスクなどのPVC素材も回収し、公園の床材や道路基盤材として再利用されている。
ここで重要なのは、「環境に良いことをしている」だけではない点だ。
医療廃棄物として処理するより、リサイクルへ回した方がコストが安い。
環境と経済性が両立しているのである。
これは私が地域の資源循環やリサイクルの現場で常々感じることでもある。
持続可能な取り組みは、「善意」だけでは続かない。
経済合理性があるから広がる。
この原則は医療の世界でも変わらない。
「使わない」という最も効果的な環境対策
もう一つ興味深かったのが麻酔ガスの話だ。
フィオナ・スタンレー病院では「デスフルラン」という温室効果の高い麻酔ガスの使用を取りやめている。
日本では現在も使用されているが、同院では医師たちの判断によって使用禁止とし、環境負荷の低い代替手段へ移行した。
これはいわゆる3R(リデュース・リユース・リサイクル)の考え方における最上位の「リデュース」である。
リサイクルは重要だが、最も効果が高いのはそもそも使用量を減らすこと。
環境分野では当たり前のこの考え方が、医療の世界にも入り始めていることを感じる。
日本が抱える制度の壁
一方、日本では感染性廃棄物に関する規制が厳しく、シリンジなどのリサイクルはほとんど進んでいない。
しかし、だからといって何もできないわけではない。
メーカーは過剰包装を見直せる。
病院は使い捨て資材の削減に取り組める。
廃棄物処理業者は新しいリサイクルルートを模索できる。
行政は制度改正の議論を始められる。
そして患者もまた、医療の持続可能性について関心を持つことができる。
資源循環の仕組みづくりは、一つの主体だけでは実現しない。
行政、企業、利用者が同じ方向を向いたとき、大きな変化が生まれる。
医療こそサーキュラーエコノミーの対象ではないか
世界全体のCO₂排出量の4〜5%、日本では約6.4%が医療分野由来とされる。
命を守るための医療活動が、結果として地球環境を悪化させ、そのことが新たな健康被害を生み出す。
これは大きなパラドックスである。
だからこそ、医療界は環境対策の「例外」ではなく、むしろ先頭に立つべき分野なのかもしれない。
私自身、リサイクル事業者や自治体との仕事を通じて感じるのは、「資源循環に聖域はない」ということだ。
工場も、オフィスも、イベントも、そして病院も、資源循環という視点から見ればすべて改善の余地がある。
重要なのは、「今まで当たり前だったから」で思考停止しないこと。
オーストラリアの病院が示したのは、決して特殊な環境活動ではない。
現場の知恵と挑戦によって、医療の質を落とさずに環境負荷を減らすことができるという事実である。
日本でも必ずできる。
医療と環境を対立軸で考える時代から、両立を目指す時代へ。
そんな変化の第一歩が、すでに世界では始まっている。