また一つ、大きな時代の変化を感じるニュースが飛び込んできた。
伊藤忠商事とダイキン工業が、業務用空調機の水平リサイクル事業で包括提携し、使用済みエアコンからアルミ、銅、鉄、レアアースなどを回収し、再び製品へ戻す資源循環の仕組みを構築するという。回収から解体、選別、再資源化、製品化までを一貫して管理し、全国展開も視野に入れている。
私が注目したのは「エアコンのリサイクル事業」そのものではない。
もっと大きな構造変化が起きていることだ。
地政学リスクが資源循環を変えた
日本はアルミニウムをはじめ、多くの資源を海外に依存している。
これまでグローバル化の中で、必要な資源は世界中から安価に調達できるという前提があった。
しかし近年は、
- ロシア・ウクライナ問題
- 中東情勢の緊迫化
- 米中対立
- 海上輸送リスク
などによって、その前提が大きく揺らいでいる。
もはや資源確保は環境問題ではなく、安全保障問題になった。
その結果、「捨てられていたもの」が国内資源として再評価され始めている。
使用済みエアコンは、見方を変えれば都市鉱山である。
アルミもある。
銅もある。
鉄もある。
レアアースもある。
これまで廃棄物として扱われていたものが、戦略資源へと変わり始めているのである。
地域の商売から国家レベルの資源戦略へ
少し前まで廃棄物回収は地域密着型のビジネスだった。
スクラップ業者が集める。
中間処理業者が選別する。
製鋼メーカーや非鉄メーカーへ売却する。
地域ごとのネットワークで成立する世界だった。
ところが今回のニュースを見ると様相が違う。
伊藤忠は単なる金属回収ではなく、
- 全国物流
- トレーサビリティ
- データ管理
- 品質保証
- 再資源化認証
- メーカーとの連携
まで含めたサプライチェーン全体を構築しようとしている。
つまり、
廃棄物ビジネスが「地域の静脈産業」から「国家規模の資源調達事業」へ進化しようとしている。
ということだ。
商流の上流から大手商社が入ってきた意味
従来の資源循環は廃棄物が発生した後から始まっていた。
しかし今回は違う。
空調メーカーであるダイキンと総合商社である伊藤忠が最初から組んでいる。
これは極めて重要だ。
製品設計段階から
「将来どのように回収するか」
「どの素材を循環させるか」
「どの品質で再利用するか」
を考えているからだ。
資源循環が廃棄物処理の話ではなく、メーカーの調達戦略になったのである。
私はこれを、
「静脈産業が動脈産業に飲み込まれる」のではなく、「動脈と静脈が一体化する時代」
だと感じている。
サーキュラーエコノミーが本気になる瞬間
これまでサーキュラーエコノミーという言葉は、
- ESG
- SDGs
- 脱炭素
の文脈で語られることが多かった。
もちろんそれも重要だ。
しかし企業が本気で動くのは、環境理念だけではない。
利益とリスク対応が見えた時だ。
今回の事業の本質は、
「環境に良いからやる」
ではなく、
「資源を確保しないと事業が成り立たない」
という危機感にあるように思う。
だからこそ大手商社が動く。
だからこそ全国展開になる。
だからこそ投資が入る。
環境活動から経営戦略へ。
今、資源循環はそのステージに入った。
資源循環業界にいる私たちへのメッセージ
今回のニュースは資源循環業界にいる人間にとって非常に示唆的だ。
これまで地域ごとに成立していたビジネスモデルは、今後大きく変わる可能性がある。
一方で、現場が不要になるわけではない。
むしろ逆だ。
回収も分別も解体も再資源化も、最終的には地域の現場が担う。
ただし、その現場はこれから、
地域の廃棄物処理業者
ではなく、
国家レベルの資源循環サプライチェーン
の一員になる。
そんな時代が始まりつつある。
伊藤忠とダイキンの提携は、単なるエアコンリサイクルの話ではない。
日本の資源循環が「コストセンター」から「資源戦略」へ変わる象徴的な出来事として、私は見ている。