大晦日、静けさの中で
朝から空気が澄んでいた。窓の外には冬の陽が低く差し込み、庭の木々の影が長く伸びている。妻と次女は、荷物を抱えて妻の実家へと旅立った。玄関のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた気がした。家の中は急に静かになり、時計の秒針が刻む音が耳に残る。
自分はというと、正月酒や刺身を諸々買い込み、冷蔵庫に並べて満足したところだ。夜になれば、ひとりで晩餐を楽しむつもりだった。そんなふうに思っていた矢先、長女から進学の相談が舞い込んだ。
大学受験を目前に控えた今、どこをどう受けるのか、最後のところで迷いがあるらしい。スマホ越しに聞く声は、少し不安を含んでいた。思わぬ「お年玉」をもらったような自分は親として、何を伝えるべきか。言葉を選びながら、心の底から出てきた言葉を紡いだ
「まずは、良い無茶をしてほしい。」
打算を打つのはいつでもできる。安全策を取るのも簡単だ。でも、若い今しかできない挑戦がある。自分のココロが本当に望む方向へ進んでほしい。合格かどうかは大学が決めることだ。自分で割り引く必要はない。思いっきりやってほしい。つまらない打算は、ずっと心に残ってしまう。そんな後悔だけはしてほしくない。
電話を切ったあと、しばらく窓の外を眺めた。夕暮れが近づき、空は淡い橙に染まっている。遠くで除夜の鐘の試し打ちが響いた気がした。年の瀬に、静かな家で交わした言葉。親としての願いはただ一つ、挑戦する勇気を持ってほしいということだ。
夜になれば、買い込んだ酒と刺身でひとりの晩餐が始まる。けれど、今日という日は、きっとその味よりも深く心に残りそうだ
well being それではまた!!